永井荷風とアドラー心理学

明治時代に生まれ大正、昭和に活躍した文豪、永井荷風の小説「濹東綺譚」ぼくとうきたんを読んだ。西洋化、近代化、資本主義化していく日本に嫌気が差した主人公の作家(永井荷風自身)が江戸の名残を匂わせる娼婦「お雪」に入れ込む話。話の最後の方でこんなくだりがある。

「スポーツの流行、ダンスの流行、旅行登山の流行、競馬他博奕の流行、みんな欲望の発展する現象だ。この現象には現代固有の特徴があります。それは個人がめいめいに、他人よりも自分の方が優れているということを人にも思わせ、また自分でもそう信じたいと思っている。―その心持ちです。優越を感じたいと思ってる欲望です。明治時代に成長したわたしにはこの心持ちはない。あったところで非常に少ないのです。これが大正時代に成長した現代人とわれわれの違うところですよ。」

もろにアドラー心理学的視点ですね。会社に行くと思うことは、逆で昭和に育った人間には、車、恋愛、結婚、仕事において自分はひとより優れていると示したいという気持ちが強い。これが平成育ちとなるとぐっと少なくなる。

つまりアドラー心理学ブームというのは、ほんとうに100年ぶりに明治以前の価値観に戻ろうとしているそんな現象なんだな・・と思うのである。(大正元年は1912年)

ぼく東綺譚 (新潮文庫)

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幸せになる勇気――自己啓発の源流「アドラー」の教えII

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