読書感想、生きるための経済学、からの脱却

NHKブックス No.1107 生きるための経済学 <選択の自由>からの脱却 | NHK出版
作者の安富歩氏は「ハラスメントは連鎖する」の作者で、この本ではちょっと難しい文章で書いてあるが色々共感するところが多い。というかこの人の価値観って自分そっくりだな・・って思う。

「西欧のステレオタイプ的発想では、人間はしばしば選択せざるを得ない岐路に立たされ、そこでは同等の選択肢を与えられる。ここで自らの意志に従っていずれかの選択肢を選び出すことが自由の本質である。その結果生じた事態に対しては、選択した本人が責任を負う。ところがこれは現実に則していない。重い選択肢を行なう場合、逡巡と熟考の結果、全体が溶け合って一つの意味のあるパターンがおのずと立ち現れ「どうするべきか、今分かった」「なにをすべきか今分かった」そして「これがそうだ」。人間は「こうしよう」という形で決断するのでなく、「そうなってしまう」という形で決断するのだ。」

特に職業選択について思うのだけど、小学生の頃何度か将来の夢という題で作文を書かされた。職業を選べることは幸せだと言われた。世界には仕事を選べない人が沢山いて、昔は日本でもなりたい職業なんてなれなかった。男子はサッカー選手とか野球選手などと書く人が多いが、特殊な才能がなければなれないことはいずれ分かる。あとは電車の運転手だとか大工、医者等、女子は保母さん、看護婦さん・・さて高校、大学を卒業して就職する時期になってみれば、親と同じ仕事を選ぶことが多い。以前の記事でも書いたけど、選択は幸せではない。苦痛とストレスを伴うものだ。どんなに検討しようが先は分からない。けど選んだ道は自分のせい。なら選択肢が多すぎるほどストレスも増える。私の人生を振り返っても、大学卒業間際に派遣会社に就職、30歳間際にいつまでも派遣じゃ・・というところで正社員。決めるときはいつも何か合図があるのだ。この先いつか今の会社を辞める時期があるような予感がしてる。でもその時はそういう合図があるのだ。

そして働いてみてからについて思うのだが、もし辞めたいから辞めれるなら日本のサラリーマンの9割は辞めてるだろう。辞めたいけど辞めれないから不幸なのだろうか、いやむしろ自分は自由で選べるはずだと思うから不幸なのではないだろうか。危険なのは思考歪曲してやりたくないことを「俺はこれがやりたいんだ」と自分に言い聞かせる。自分に嘘をつくことではないだろうか?

ミヒャエル・エンデの自由の牢獄という話がある。ぜひ「自由の牢獄」でググって見てください。

便利な世の中はストレスがたまる。 - 社会考察日記 azalea

「近代人が自分の利益のために動いてると信じながら、実際には自分のものではない目的のために動いてる。という矛盾に陥っている。なぜなら近代人は「自我」に基づいて行動すると認識しながら、実際にはその自我は真の自我ではなく、「社会的自我」にすぎないからである。」

アイデンティティとは「自分が誰だあるかを示す自己同一性であると言われる。それゆえ、アイデンティティを確立するとは個人的な問題であるように思える。だが結局「スコットランド人の保守党員としてのアイデンティティ」というように、「どの共同体に帰属するか」が「個人の自己同一性」を担保するということになる。アイデンティティとはどの共同体に帰属しているかという意味になる。それゆえ共同体から離脱した近代的個人はアイデンティティの喪失にあえぐことになる。」

わたしが良くないと思うことは、知識人だとか思想家、ヒッピー、パンク、アウトサイダーに属する人こそ、自分は周囲や時代に関係なく自分のアイデンティティを形成してると思いがちなことなのだ。けど資本主義があるから反資本主義、ポップがあるからパンクがある。時代から逃れてアイデンティティを形成するのは宇宙人でも無理である。逆に前向きに捉えるなら世の中誰しも繋がっているということでもある。
例えば電車の中で女子高生がテレビの話題で盛り上がっている。以前なら自分には関係ないこと・・と思っていた。けどそれは私のアイデンティティ・・どんな本を読み面白いと思うか、何をして充実してると感じるか、なにをブログに書いたら意味があると感じるか、どんな音楽を聴いていいと思えるか・・に確実に影響を与えてる。そしてテレビを全く見ない、ブランドのついた店のものはなるべく買わない私の価値観も彼女たちに影響を与えてるはずだ。テレビの快楽はみんなが見てるからこそもたらされる。ブランド物もその価値を認める人がいてこそ消費する快楽がある。
田舎のひとはうわさ話が好きで隣の人が何をしてるか盛んに気にするという。そしてそれがいやで都会に出てきた・・という人もいる。それはあんまりいい話じゃないように聞こえるが、都会の人は「自由」を錯覚するから孤独に陥るのだと思う。とくに都会ではコミュニティが失われた等と良く言われるが・・日本も世界も一つの巨大なコミュニティである。今度電車の中で他の人の会話にもちょっと耳を傾けてみよう。決して自分と無関係でないのだから・・


以上、読書感想が今までこのブログで書いてきたことの繰り返しになったのだった。